王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
背中に縋ってきたリリアンに、ギルバートは一瞬ビクリと肩を震わせたが、振り向くことはせずただ黙って彼女の言葉を聞いていた。
「でもね、ギル。もうつらくないから。これからは私がいつだって味方でいてあげる。私だけじゃないわ、お爺様だってギルの味方よ。だからもう、そんな冷たい顔をしないでいいの。そうすればきっと……あなたの味方はもっと増えていくはずよ」
なんの権力も持たない自分では、こうして彼の心を慰めるぐらいしか出来ないことが、リリアンにはもどかしい。
けれど、ギルバートが安らぎを得て態度を軟化させれば、周囲はもっと彼に好意的になるのではないかとも思う。今の彼の態度はますます敵を作っているように見えてならない。
せっかくシルヴィア復権派がいなくなったというのに、ギルバート自身が新たな敵を作っていては意味がないだろう。本当に平和な日々を手に入れるためには、ギルバート本人が変わることが大事だと、リリアンは思った。
そのために自分が出来ることは——。
「大好きよ、ギル。何があっても、私はあなたのことが一番好きだから。神様に誓うわ、私は絶対あなたを裏切らないって」
ギルバートに信じる心を教えてあげることだと、思った。
敵に囲まれ、裏切られ、欺かれて傷だらけになった心を、抱きしめて癒してあげること。それが自分に出来る唯一のことだと、リリアンは思った。
ずっと黙ってうつむいていたギルバートが、ゆっくりと振り返る。
彼の身長はリリアンより頭ひとつ分高い。リリアンは首を上げてギルバートの顔を見上げる。
「リリー……」
今にも泣き出しそうな切ない表情は、リリアンがよく知った昔のままのギルバートだった。
やっぱりギルバートの本当の顔はこっちなんだと、リリアンは安堵する。威圧的で冷酷な国王の顔は、彼が自分を守るための仮面だったに違いない。