王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
舞踏会から数日が経った。
相変わらずギルバートはリリアンに近侍の真似事をさせては、体良く甘えている。
けれどリリアンは以前より抵抗を感じない。人前でベタベタすることや公務に支障が出そうなときははっきり断るが、それ以外のわがままは出来るだけ受けいれてあげようと心掛けていた。
(私に甘えることでギルがイライラせず周囲に優しくなれば、きっと大臣や侍従たちももっとギルを慕ってくれるようになるものね)
そんなリリアンの思いやりを知ってか知らずか、ギルバートはそばに彼女さえいれば常にご機嫌だ。
「ああ、疲れた。ね、リリー。お茶の時間にしようよ。甘いブラマンジェが食べたいな」
「駄目よ。さっき休んだばかりじゃない。ほら、早くこっちの書類にも目を通さないと、今日中に終わらないわよ」
「ちぇー、ケチ。じゃあさ、そこのキャンディ食べさせてよ。舐めながら仕事するから。ほら、あーん」
書類の決裁をしている最中でも、この調子である。リリアンはやれやれと溜息をつきながら、サイドボードに置かれている陶器のキャンディーボックスからミルク味の飴をひとつ取り出し、それをギルバートの口もとへ運んだ。しかし。
「きゃっ」
口もとに差し出されたキャンディーを、ギルバートは指ごとぱくりと咥えてしまう。
リリアンが驚いて手を引くとすぐに離してくれたが、楽しげな表情を見るに過失ではないようだ。
「キャンディよりリリーの指の方が美味しい」
しかもまったく悪びれていない。ギルバートと来たら一事が万事この調子である。
けれど、さっきまで書類とにらめっこしていたときには深く刻まれていた眉間の皺が消えているのを見て、リリアンは(まあ、いっか)と思うのだった。