王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です

リリアンは自分がギルバートの清涼剤であることは自覚している。しかし、他の者たちがどこまで許容するかは、また別の問題である。

それは、ある夜のことだった。
いつものように執務室へ呼ばれたリリアンは、何やら室内がざわついていることに気づき扉の前で動きを止めた。

部屋から漏れ聞こえてくる声は、ギルバートと秘書官や広報官など大臣らのもののようだ。

「別に問題はないだろう。百人近くいる同行者がひとり増えるだけだ」

「しかし、陛下……、今回のチエールへの外交はエレナ大公女殿下とお会いすることが目的です。さすがにリリアン様をご同行されるのは……」

「見合いなど形だけのものだ。私はエレナ姫と結婚するつもりはない。わざわざ出向いてやるのは、先日の非礼を詫びてやるためだ。勝手に結婚話を持ち出し浮かれている女のことなど、知ったことか。私はリリアンを同行させる。これは命令だ」

扉に近づき耳をそばだてて聞いた会話に、リリアンの血の気がざっと引いた。

ギルバートがお見合いに行くこともショックだったけれど、彼がそれに反発しリリアンを同行させようとしていることにも激しい困惑を覚えた。

彼が自分を愛し頑なに他の女性を受けいれないことは嬉しい。けれど、国王の立場としてそんな幼稚なわがままは許されるはずはないだろう。

国のためを思えば、彼は他国の姫君と進んで結婚すべきだ。いや、どうあがいたところでいずれはそうするしかないのだ。どんなに愛し合おうと、リリアンとは結婚できないのだから。

リリアンは叱らなければならない。『国王なのだからわがままを言わず、相応しい相手と結婚し早く世継ぎをもうけるべきだ』と。それが国のため、国王としての義務なのだ。

けれど、それはリリアンにとってもギルバートにとっても、あまりに残酷すぎる。
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