王宮メロ甘戯曲 国王陛下は独占欲の塊です
(……言わなくちゃ。わがままはいけないって。自分勝手な理由で臣下を困らせちゃ駄目って)
そう頭では分かっているのだけど、足が動かない。
ギルバートと同じわがままが自分の心の中にもあることを、リリアンは泣きたくなるほど痛感する。
(……言えない。ギルに、他のひとと結婚してだなんて。私の口から言えるわけないじゃない……)
結ばれないことは分かっていても、彼が他の女性と結婚することはつらい。ましてやどうして自分の口からそれが勧められようか。
けれど、このままではギルバートは臣下や友好国であるチエール王国の期待を裏切ってしまう。彼が王としての信頼を損なうことは、リリアンの望むことではない。
(どうしたらいいの……)
扉の前で立ち尽くしていると、中からさらにギルバートの威圧的な声が聞こえた。
「馬鹿馬鹿しい見合いごっこの外交で、リリアンとひと月も離れるだなんてあり得ない。チエールへの旅は必ず彼女を同行させる、いいな。リリアンには直接私から話をしてくる」
同時に椅子から立ち上がる音が聞こえて、リリアンは慌てて踵を返し執務室から離れ走り出した。立ち聞きしていたことを、知られたくはない。
急いで自室へ戻ったリリアンだったが、頭が混乱したままで、どうしていいか分からない。
「……どうしたら……いいの……」
走って戻ってきたせいで乱れた息を整えながらリリアンは部屋の扉にもたれかかり、ギルバートがやって来るまでの間なんとか冷静さを取り戻そうと努力した。