花の色は 移りにけりな いたづらに
花の色
幼い頃、祖父に連れられて初めて知った『華の道』
その色に魅せられて三十路手前の今まで続けてきた。
それを昨日、手放した。
「君の作品は『華』にはなれない…君が『色』を知らなければ、一生…ね」
私は知らない…
『華』も『色』も…
だから手放した…
「…20年前から今日に至るまで御指導、有り難う御座いました…
お家元にも宜しくお伝えくださいませ…
御前、失礼致します」
そして私は知ろうともせず、逃げた。
「先生~? 先生ってば!!」
は!!
「ごめんなさい、どうしましたか?」
「大丈夫ですか?ボーッとしてましたけど?」
「ええ、大丈夫よ。さ、何か用事があったのでしょう?何かしら?」
都築 桜芳(つづき さほ)
28歳 独身
この歳で出身大学の講師をしている。
専攻は日本文学 中でも中古文学 和歌。
研究室に女子学生が訪ねてきていたのにうっかり物思いに耽ってしまうとは…失敗失敗。
彼女のほうに向き直ると、彼女はホッとしたのか話始めた。
「えっと、卒論に使う文献を先生が持ってるってお聞きしたので貸してもらおうと…」
「ああ、確か笹木さんの論題は百人一首だったわね、これかしら…?」
書棚から文献を選んで手渡すと、彼女は大事そうに表紙を撫でた。
「ありがとうございます、先生。ところで先生は百人一首でどの歌がお気に入りですか?参考までに!」
百人一首…
「私は…
『花の色』
が好きよ…」
そう…私は『花の色』
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