カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。
プロローグ


   ◇


 辺りが朝日に照らされ始めた頃、街も今まさに起きようとしていた。


 鳥達が空に飛び立ち、その声をもって街を賑やかに起こす。


 同じように街では新聞配達のバイクが走る。早起きの人は窓を開け始め、中には今帰宅してきたと思われる人もいた。


 伊野利《いのり》市は田畑や森の中に街を造ったような場所だ。都会に近い場所でありながら長閑な雰囲気もある、今まさに発展中のベッドタウンだ。


 そんな伊野利市に赤い屋根の店があった。
 大通りから外れた細い通りの角。テラス席があることでカフェだとわかる小さな店。


 あまり人が通らないだろうと思われるそこだが、最寄り駅から大通りへと出るのに丁度いい裏道である。電車が動き始める今、歩く人も増えてきた。 


 カフェ雑貨はぴねす。
 それが店の名前だ。

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