カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。
わたしは何とか立ち上がって、乱れていた服や髪を整える。
落ち込んでばかりいて、身なりのことなんて気にしていなかった。でも、カーブミラーに写っていたわたしは最悪なお化けで驚いた。
何とか普通の社会人らしく振る舞うことを決意したけれど、今日あったことは何も変わらない。
「珈琲か」
何となく重さを感じる足を引きずって、男性の言っていたカフェの前に足を止める。
可愛らしい低い木が店を包むように植えられ、テラス席には花壇があった。
佇まいは茶や白を基調とした色合いでレトロな感じ。
すごく落ち着く雰囲気。
「カフェ雑貨はぴねす……カフェだけじゃないのね」
ドアの隙間から香ばしい珈琲の匂いがして、わたしの足は勝手に休むことを要求する。
取手に手をかけようとして、やけに目立つピンクの貼り紙が気になった。