カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。
「で、はぴねすでアルバイトし始めたんすけど」
やる気がないせいか、接客はマニュアル通り。どんなに店が混んでいても、自分の仕事中心。レジから動かないこともあったのだと言う。
スタッフとのコミュニケーションもあまりなかったんだと、陽希くんは笑う。
笑い事じゃない。はぴねす内の雰囲気も悪かったんじゃないかな。今じゃ考えられないけれど。
そんな陽希くんを見兼ねて夏彦さんが動いた。夏彦さんは陽希くんに対して一切の仕事を禁じた。
「ぼくは何もさせてもらえませんでした」
「何も?」
それはレジも料理を運ぶことも、お客さんの案内も、掃除でさえ、やるなということ。わたしだったら苦痛で耐えられない。
「ぼくはいつも椅子に座っているだけでした。仕事をさせてもらえないことが辛いとか思わなかったんですよ」
「陽希くん、重症だったのね」
困ったように笑う。当時の陽希くんにはわからなかったから仕方ないけど、すごい大変だったろうな。
「僕が変わったのは初めての給料日です。本当は給料出たら辞めようかと思ってたですけど」