カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。

 給料明細を見たら、急に思い止まった。ただ座っていただけでお金が振り込まれていたから。
 動き回って、汗を流して、やっときた給料日に喜ぶスタッフとは対照的。


 わたしはその光景を思い浮かべると、情けなくて悲しくなってくる。スタッフと上手くいっていなかったとはいえ、そこまでの差を付けられ孤立してしまったら……普通じゃいられない。



「働いてもいない自分がお金もらって。すごく悔しかったし、悲しかったし、申し訳なくって」



 今、辞めてはいけないと思った。
 そして今までのことを夏彦さんに謝り、同じように働かせて欲しいと申し出た。


 それは初めて陽希くんが前を向いた瞬間だったんだろうな。



「店長、何て言ったと思います?」



 まるで自慢をするように陽希くんは微笑む。相当嬉しかったんだろう。



「それが責任感だ。絶対に忘れてはならない。そう言ってくれたんすよ」

「責任感、か」

「ぼくに足りなかったのはやる気だけじゃないって。責任感だって」

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