カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。


 男性店員は真面目に、マニュアル通りといった感じでわたしを案内する。


 店の制服だろうワイシャツがよく似合う人で、爽やかな笑顔と細い目が特徴的。黒の短髪であることも清潔感があって好感が持てる。
 歳は二十代後半くらいだけれど、アルバイトなのかな。



「今ならランチメニューありますよ! 食べていかれます?」

「いえ、その……」



 言いかけて、盛大にお腹が鳴る。


 このタイミングで? ちょっと待って。絶対に今、店員さんに聞かれたよね? 聞いたよね?


 顔から火が出るとはまさにこのことか。恥ずかしい!


 わたしは慌てて手近のテーブル席に座る。



「その……ランチメニューください」

「はい! かしこまりました」



 腹が鳴ったことを突っ込まれたらどうしようかと思っていたけれど、華麗にスルーされた。
 それはそれで恥ずかしい。

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