カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。
「ほらほら、お店で騒がない! 他のお客様にも店員さんにも迷惑でしょ!!」
厳しい口調で言う姿は、やっぱり先生だなと思う。
「陽希くん、おすすめは?」
女子生徒が陽希くんに詰め寄る。
女の勘だけど。あの子、陽希くんのことが好きらしい。結構ぐいぐい行くから、やはり最近の若い子は積極的ですごいなと思う。
でも、先生だけじゃなくて友達もみんな来ちゃって不服なのか機嫌が悪そうな陽希くん。
「若菜ちゃん、何食べる?」
驚いたことに、先生は若菜ちゃんと呼ばれていた。
最近は名前呼びが普通なのかな。いや、あの先生だからかな。
「ご注文はお決まりですか?」
色々と気になるところだけど、わたしは今日から一階で接客デビュー。注文を取って、厨房の屋島さんに注文票を持っていく。
さっきから、屋島さんに持っていっても返事はないけど。
でも負けない。いつかスタッフだって認めてもらうんだから。
わたしが注文を聞きに賑やかな席に近づくと、陽希くんは少し悲しそうな顔をした。こんなはずではなかった、と目で訴えて落胆の表情を浮かべている。