カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。
その時、ちょうど店の裏側。事務所の窓の外から音が聞こえた。そこは駐輪場になっていて、多分瞬くんが自転車を倒したんだろうって思った。
わたしは何気なく窓を開けて、大変そうだったら助けに行こうとしたんだけど……。
「あ」
窓を開けた先には停まっている青い車。
そのボンネットに瞬くんが倒されていた。こちらには気づいていないらしく、女性は瞬くんの両肩を押さえている。
「好きなの!!」
大変な場面を見てしまってわたしが狼狽える後ろで、陽希くんが呟いた。
「若菜先生……」
切ない声が耳に届く。
あの日、瞬くんが接客していた女性。陽希くんと一緒に来店して、先生だと気づいた今日。
女性の勘というものは当たるらしくて、本当に瞬くんに恋をしていた。
皮肉にも、陽希くんの前で告白してしまった。
これ以上、傷つけないで欲しい。わたしは願い、窓枠を持ったままだった手が震えた。