カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。
瞬の耳に入らないことを祈るばかり。だってそのまま誰かに話して、はぴねすで噂になって、やっと軌道に乗りかけている職をまた失うかもしれない。
辞めたくない。
夏彦さんの不思議そうな顔をすり抜けて、わたしは屋島さんを追いかける。
ここは五階だ。エレベーターは!? 駄目。今動き出したところ。仕方ない、階段だ!
すぐに階段を駆け下りる。靴も中途半端に履いているから転びそう。でも履き直してる場合じゃない。
とにかく誤解を解かなきゃ、夏彦さんにも迷惑がかかる。
一階に着いた頃には息があがっていた。
でも、ちょうど外に出ようとしている屋島さんを見つけて、わたしは叫んだ。
「屋島さん!!」
爽やかイケメン眼鏡が振り向くと、途端にわたしは何から言えばいいか混乱する。
無駄にイケメンだし、念願のシェフに会えて嬉しいのもあるし……違う、誤解を何とかしなきゃ!
わたしは呼吸を整えながら、屋島さんのところまで歩く。頭をフル回転させてさっきあったことを説明しようとする。