カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。


「樹!」

「は……え?」

「オレは樹だから」

「は、はあ」



 彼が言わんとしていることがわからず、わたしは生返事になってしまう。
 ちょっと苛々した様子の屋島さんの表情にわたしは焦る。



「確かにオレは麗より年上の三十四。だけど苗字はやめて。せめて、樹さんって呼んでよ」

「は、はい。じゃあ、樹さん」



 何気に呼び捨てにされたことは黙っておく。今だけ。
 なぜ年上なのに名前の方で呼ばれたいのか意味がわからないけど、もしかしたらイケメンってそういうもの?


 あれ。でもみんな屋島さんって呼んでなかった?



「やっぱり屋島さんって呼びます」

「チッ」



 舌打ちするし!



「理由教えてくれたら名前で呼びますけど」

「特にない」

「ないのかよ!」



 あ、いけない。つい叫んじゃったけど、彼の名前への拘りがわからない。まあ、意味はないのかも。つまり、変わり者ってところ?



「で? 何の用だ」

「あ、そうだ。その、屋島さん。違うんです!」

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