カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。

「スカートはいてきたら、ぶん殴るところだった」



 さり気なく暴力的な言葉を吐かないでほしい。あなたにとっては日常なんだろうけど、いちいち心臓に突き刺さる棘が痛い。


 行き先くらい教えてくれてもいいじゃない。



 ――――クソ樹め。



 頭の中で呼び捨てにして、ちょっと気が晴れる。我ながら小さいと思っていたら殺気を感じた。


 すでに白いバンに乗り込んでいた屋島さん。思いっきり睨まれて慌てて助手席に乗る。
 シートベルトを締めるか締めないかのうちに車が走り出した。意外と安全運転だ。



「で? どこに行くの?」



 それには全く答えない屋島さん。さすがにわたしはイライラした。



「ねえ、聞いて――」

「うわ!!」



 突然、屋島さんが急ブレーキ。目の前には信号待ちをするトラック。
 ぶつからずに済んだものの、かなり危なかった。


 横を見れば焦った様子の屋島さん。わたしは文字通り固まったままで、彼を凝視してしまう。



「……な、に?」

「頼むから、運転中は話しかけないでくれ。集中出来ない」



 その表情からわざとではないことがわかる。もしかして運転が苦手!? イケメン台無し……。


 そんな車に乗りたくないと思ったのは言うまでもない。緊張感漂うドライブは約二十分ほど続いた。
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