カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。

「ムカつく」



 小声でぼやく。わたしだけが疲れているなんて、理不尽すぎる。
 しかし休憩もさせてくれないとは、どんだけ鬼なのだ。今時流行りのS男というやつなのか。それは嫌だな。


 それにしても、どうして素直に言うことを聞いてしまうんだろう。もしかしたら、そこまで悪い人とは思いたくないのかな。
 あれだけ美味しいものを作れる人が、悪い人だなんて思いたくない。



「時間がかかったな。帰るぞ」



 時刻は午前八時。お店の方は定休日なのに、市場なんかに来てよかったのかな。



「いいか、絶対に話しかけるなよ」



 運転席に乗り込もうとしている屋島さんが念を押す。
 しかし、わたしはそれを止める。そんなところには座らせない。



「わたしが運転する」

「あ? 何を――」

「あんな危なっかしい運転の車に乗りたくないって言ってんの!」



 少し強気になってみる。それが意外だったみたいで、屋島さんが狼狽える。

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