カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。
「麗には関係ない」
「別にいいじゃん」
「お前、いつから敬語やめた」
「……さあ。なんか、屋島さんに敬語とか馬鹿らしくなって」
そう言うと屋島さんは舌打ちした。
本当に怒らせてしまったようで途端に心配になる。我ながら面倒くさい性格だ。
「そのナビの通りに走れ。次の目的地だ」
「はいはい」
それから屋島さんは外を見たまま何も喋らなくなった。
寝てしまったのではないかと思うくらいに静かで心配になったくらい。
どのくらい走っただろうか。
ぽつぽつとあった田園風景がなくなり、市街地と高い建物が増えてきた頃。ずっと窓の外を見ていた屋島さんが徐ろに喋り出した。
「店長が……」
「え?」
いきなり喋るから聞き逃した。
舌打ちを織り交ぜて、屋島さんがまた口を開く。
「店長がお前を市場に連れて行けって言うから、今日連れてきた」
ちょっと待てと、運転中にも関わらずよそ見をしそうになった。慌ててハンドルを持ち直す。
「じゃあ……あれは?」
「全部バラすってやつか?」
「そう」
「成り行き?」