カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。

 言動はとんでもない男。しかし、何か引っかかる。


 冷たい態度や人を蔑むような言葉。仕事を手伝わなかったり馬鹿にしたりはしていた。
 でもどこか優しさを感じる。何か腑に落ちない。


 そうだ。運んでいる時、話をしながらもずっとわたしのことを見てくれていた。
 転びそうになった時には、いつの間にか真横にいた。



「わざと?」

「あ?」

「屋島さん。わざと嫌われるようなことしてない?」

「さあな」



 はっきりしない。



「だって、同じ店で働くスタッフにあんな意地悪する? 自分だってやりにくくなるじゃない」

「そうだな」

「あんな素敵な料理作る人が、あなたみたいな捻くれドSだとは思えない」

「悪かったな、幻滅させて」

「違う。あなたは優しい人。絶対に!」



 わたしの基準は料理。
 美味しくて優しくて幸せになれる料理を作れる人に悪い人はいない。そう信じてるから。

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