カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。
そんな店の前で佇む人物が一人。
はぴねすの店長、国分夏彦《こくぶ なつひこ》だ。
六月始めのその日。梅雨入りという話をニュースで聞いていた夏彦だが、夏のような空に首を傾げていた。
ひとしきり通りを眺めた後、持っていた紙を店の扉に貼り付け始める。
無言で貼り紙をする姿は、中肉中背の中年男性。四十代の見た目。髪はきっちりとまとめて整髪料で撫でつけていた。
きっちりした性格がそのまま出ている。
腰からまいた黒いエプロンやワイシャツにしても皺はなく、髭もきちんと剃っていた。
「む……」
しばらく扉を見つめていたかと思うと、振り向いて通りを凝視。彼はひたすらそこに立っている。
通行人が不審がるほどに直立不動。通りを見る瞳ははっきり言って恐い。