カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。

「こうやって盛り合わせたいのなら……」



 わたしはは珈琲を飲んだ時に使わなかったスティックシュガーを夏みかんにかけた。



「こうした方がいい。味が引き立つし、若い人はこっちの方が好みよ。カロリー的な問題もあるけれど、それは……」



 そう語ってから気づいた。
 塩谷くんが口を開けたまま、固まっている。わたしを見たまま微動だにしない。



「ご、ごめんなさい! 余計なことを言って」



 熱くなりすぎてしまった。


 ごはんはとにかく美味しく食べたいって願望が強すぎて、たまにこういう失敗しちゃうんだよね。


 だから、お店では黙って食べようと三日前に誓ったばかりなのに。



「あの。詳しいんですね」

「……その。パティシエになりたいって思ったことがあったから」



 資格取れなかったし、余裕なかったし、取ったとしてもパティシエにはなれなかったと思うけど。
 食べることだけはずっと好きなんだよね。自然と詳しくなっただけなんだけど。

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