カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。


「わたし、今の部署に異動してきてまだ日が浅くて。知らなかったんです……部長に子供が、奥さんがいるなんて……」

「失恋ですか?」



 塩谷くんに聞かれて、思い出してしまう。
 ようやく落ち着いてきたのに、また涙が止まらなくなった。



「部長に付き合ってと言われて、わたしも好きだったから付き合って……でも、でも……不倫だったんですよ!!」

「不倫」



 やっと店長さんが喋った。初めて聞いた低い声。
 でも「不倫」なんて言わせてしまって申し訳ない気持ちが溢れる。



「今朝……奥さんが会社に……わたし、責められて」

「修羅場」



 店長さんが呟くように言う。


 その通り、修羅場を経験してしまった。
 奥さんに掴みかかられて、髪を引っ張られて、会社内はめちゃくちゃになって。自分のことだけど、ドラマみたいだって思う。

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