カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。
「いろいろあって奥さんは帰ってくれたけど……わたし、もう。会社にいるの……辛くて、退職願……」
会社の中にいることも辛い。不倫した女なんて会社も必要ない。助けてくれる部署の人もいなかった。
だから、わたしは辞めることにした。
勢い、ではあったけれど後悔はしていない。ただ、一人になってしまったことが悲しくなっただけ。
「だから……不審者みたいだったけど、違うんです!!」
そこまでわたしが言うと店長さんは、ガタンとパイプ椅子をならして勢いよく立ち上がった。
「塩谷くん、ちょっと……」
「な、なんですか?」
二人はわたしから離れた場所で、ヒソヒソと会話を始める。
きっと警察を呼ぼうかどうか、相談してるのね。
時々こちらを見ながら、店長さんは相変わらずの無表情。塩谷くんは頭を掻きながら困っている。
「わ、わかりましたよ」
そんな声が聞こえて、わたしは緊張と悲しみで体が硬直した。