カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。
目の前の席に塩谷くんが座って、店長さんは離れたドアの近くでそれを見ている。
もう、逃げられない。
「えっとですね……その。説明不足だったみたいで」
塩谷くんが口ごもると、店長さんが咳をするふりをして急かす。
「あの、ずいぶんスイーツに詳しいんですね。資格とかあるんですか?」
「ないです」
「でも、何だかすごくよく知ってたから」
「パティシエになりたいって、思ったことがあったから。食べるの好きだし、その……独学で少し」
「店長! パティシエさんに少し足を突っ込んでます!!」
塩谷くんが子供のようにはしゃぎ出す。
何がそんなに嬉しいのか、わたしはこんなに切ない気持ちでいるのに。
その足を突っ込んでる発言もどうかしている。