カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。
「スイーツに詳しいと聞いたんだが」
「ま、まあ」
「パティシエになりたくて、独学で少し学んだということかな」
「そういった本を読んだり、ほとんどは……」
「ん?」
そんなに見つめないで欲しい。恥ずかしい。
でも、ちゃんと言わなきゃ。
「流行りの店とかで食べていただけです。わたし、食べるのが好きなんです! 本当にそれだけで……」
「合格」
「へ?」
「君が欲しい」
「え?」
「ここに居て欲しい」
恥ずかしくなる言葉を連発したかと思ったら、テーブルに置いたわたしの手をぎゅっと握る。
いやいや、なぜ手を握って見つめてくるの。そんなふうに切なげに見つめられたら、わたし……。
「お、お願いします」
夏彦さんは多分、喜んでいる。わたしの手を握る力が強くなったから。