カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。

「もしもし……」

『あんたなぁ、仕事辞めたって聞いたんやけど。どういうことなん?』



 そうだった。お母さんの知ってる人が同じ会社にいるとか前に聞いた気がする。


 話が早い。そして最悪だ。



『あんた家出て、そっちの大学卒業するまでは許したけどなぁ。就職は認めてへんよ?』

「わかってるし」

『勝手に就職するから黙ってたけどな。こっちに戻ってきぃ。ずっと言ってたやろ。一人暮らしは許さんて』



 だから。そうやって押さえつけてくるからわたしは逃げた。
 もう子供じゃないんだから、ほっといて欲しい。



「しばらく、電話しないで」

『何言うてるん?』

「帰りたいと思ったら帰るし、話したいと思ったら電話する。でも今は頼りたくないから」



 何か言おうと声を出すお母さん。でも、わたしは躊躇なく通話を切る。

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