カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。
相変わらず几帳面なんだから、という言葉は夏彦の耳に入っていなかった。
「三条くん。学校、早すぎじゃないか?」
「ちょっと友達にテスト勉強の相手しろって頼まれて。で、店長は? 開店準備には早すぎじゃないですか?」
「市場に行った綾川くんを待ってる」
「今日は仕入れ日でしたっけ」
一通り会話を交わし、
「それじゃあ、午後に」
と言って自転車にまたがった。
夏彦はそれを見送った。
「ん……」
立っていると恐いと言われたのを思い出して、すぐに店に入る。
扉が閉まると、ピンクの紙が遠くからでも目立っていた。