カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。
「ところで、パティシエじゃないから」
「え! 違う!?」
「聞いてなかったの? わたし資格は持ってないの。食べるのが好き……」
それが大食いと言われる要因か。ちょっと控えようと思った瞬間。
食べるのと仕事を混同するところだった。
夏彦さんはなぜ、こんな何も無いわたしを採用してくれたんだろう。
ちらっとこの間、夏彦さんが言っていた。瞬くんはトラブルメーカーで口が軽いから気をつけろ、と。
ということは、この間の不倫の話はスタッフが全員知っているということ。
そもそも、最初からちゃんと説明していてくれたら、不倫の話などしなかったのに。
トラブルメーカーか。罠にかかったような気分。
わたしの顔色を覗いて、考えていることが何となくわかったらしい瞬くんは気まずくなって口を噤んだ。