カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。


 そしてまた無言になる。


 途中、陽希くんが珈琲を運んできてくれた。助けてもらいたかったが、店内は忙しいみたいで言えない。


 無言に耐えられない。駄目だ、どうしよう。



「あの」

「……荷物」

「へ?」

「麗ちゃん、荷物多すぎる」



 まだちゃん付けで呼ばれることに慣れない。そのことにも驚いたけど、テーブルの下にある荷物に気づいているとは思わなかった。



「会社の寮、出てきちゃって。大きい荷物はだいたい売ったので……必要なものだけバッグに詰め込んだから」

「新しい住まいは?」

「いきなり出てきちゃって、今はまだ決まってなくて。しばらくはカプセルホテルとかで暮らしながら、探そうかと思ってます」


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