カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。

 とにかくここに案内した理由を聞かなきゃ、何も始まらない。


 始……まる?
 まさか……まさかね。


 変な想像を掻き消す。
 わたしは頭を振って、荷物の中に入っていたスウェットに着替える。


 何着か持ってきたスウェットが役に立った。帰る時もそのままでいいかな、なんて考えながらバスルームを出た。



「夏彦さん、あの……あの! わたし……」

「お風呂、どうだった?」

「あ。お風呂、ありがとうございます! それで……」

「何か飲む?」

「あ。あの、わたし。一階にあった自販機で欲しいのがあって! すぐに戻ります!!」



 財布を引っ掴んで、ドアを飛び出す。
 つい、逃げ出してしまった。


 どうしたらいいかわからなくて、緊張で考えが纏まらなくて、ドキドキが止まらなくて、わたしは今普通じゃない。

< 69 / 167 >

この作品をシェア

pagetop