カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。
とにかくここに案内した理由を聞かなきゃ、何も始まらない。
始……まる?
まさか……まさかね。
変な想像を掻き消す。
わたしは頭を振って、荷物の中に入っていたスウェットに着替える。
何着か持ってきたスウェットが役に立った。帰る時もそのままでいいかな、なんて考えながらバスルームを出た。
「夏彦さん、あの……あの! わたし……」
「お風呂、どうだった?」
「あ。お風呂、ありがとうございます! それで……」
「何か飲む?」
「あ。あの、わたし。一階にあった自販機で欲しいのがあって! すぐに戻ります!!」
財布を引っ掴んで、ドアを飛び出す。
つい、逃げ出してしまった。
どうしたらいいかわからなくて、緊張で考えが纏まらなくて、ドキドキが止まらなくて、わたしは今普通じゃない。