カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。

「アパートとか住む場所。見つかるまで、あの部屋自由に使っていいから」

「へ?」

「マンションで独身の一人暮らし。広すぎて、あの部屋は使っていなかったんだ」



 こんなに沢山喋る夏彦さんを初めて見た。頭の片隅で思って、夏彦さんが今言った言葉を思い出す。


 部屋を自由に……使っていい!?


 驚いて次の言葉が出てこない。
 そんなわたしを見て理解したと判断したのか、夏彦さんはまた去っていこうとする。



「ちょ、待って!」

「風呂やトイレが気になる?」

「いや、気にしませんけど……」

「なら……」

「同じところに、男女一緒なんですよ!?」

「気にしないから」



 今度はにっこり笑った夏彦さんを初めて見た。
 でも笑顔なんてどうでもよくて、何か気持ちが冷めていくのを感じる。

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