カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。


「何か申し訳ない」



 時々、何もしないのは悪い気がして夏彦さんのために食事を作る。でも気恥ずかしいんだよね、何となく。


 そう思いながら、出かける準備をして玄関まで行く。そこでドアに達筆なメモがあることに気づいた。



 "合い鍵。忘れないで。"



 メモまで言葉数が少ない。夏彦さんらしい。


 メモに貼り付けた鍵を持ってドアを開ける。きっちり鍵を閉めてから何となく自分の身だしなみをチェック。


 今は簡単なシャツとパンツというラフな格好。髪は纏めて、化粧も少しだけ。
 わたしは何気なく時計を見る。



「あ。まずい」



 わたしは急ぎマンションを出た。
 でも友達と会えたもののいい結果には結びつかず、まだしばらくは夏彦さんのマンションのお世話になりそうだった。

< 78 / 167 >

この作品をシェア

pagetop