カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。

「もう一時間経ってしまったね。今日は着替えてから雑貨の方をお願いしたい」

「雑貨ですか?」



 ついにフロアに出ることになる。お客様のいる中に行くのはやはり緊張する。


 しかも、まだ右も左もわからない新人。接客業も久しぶりすぎて、上手くいくか不安でたまらない。


 その一方で、はやくやりたいという逸る気持ちがある。
 とにかく落ち着かない。



「雑貨は二階フロア。レジは一階だけど、今日はしなくていい」

「え? じゃあ……」

「夏の新商品が入荷してるから。その品出しをしながら、ランチタイムの店内を時々見ていて欲しい」



 店を見るとはどういうことか。品出しはわかるけれど、ちょっとよくわからない。



「塩谷くんがフロアにいる。俺もこの後、フロアに入るから。見て欲しい」

「見ます……けど、どういう意図が?」

「よく見ること。忙しいフロアでどんな風に動いているか、よくわかると思う」

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