明智お光の苦悩

美形小姓に寵愛

実は少々気になっている事がある。斉藤道三との会談を控えるのは明日であるが、今宵ある人物を部屋に呼んでみた光秀だ。
近頃視界に横切る新しい小姓に気付いたのだ。名を耳に挟めば『堀久太郎』だと言う。うん、滅茶苦茶将来必要な人物じゃないか?

確か信長死後は羽柴秀吉につくんだっけ。私には敵対する筈だ。ならば、今から距離を縮めて置こう!と決めたのである。

「…失礼致しまする。堀久太郎、参りましてございます。」

「ああ、入ってくれ。」

そっと襖を開けて入る少年に息が洩れる。木下藤吉郎の美しさは、農家の出らしく健康的な物だが、堀久太郎はいかにも良いところの出らしい淑やかな美しさなのだ。
これは…将来相当な美形になりそうだな。信長が全く気にかけていないなんて。それは、信長の目下の興味が光秀にあるからなのだが。

「…あの、私にご用というのは?」

「ん?ああ、とりあえずくつろいで良い。」

畳の上に敷かれた布団に目を留めた堀は、少々気恥ずかしく思うも直ぐに姿勢を正し正座をすると、光秀を真っ直ぐ見つめた。
中々良い目をしている。…私を見定めているのか?

例に漏れず、史実とは異なる容姿であるのは気にしない。

「用というのは、新しく入った小姓に挨拶をせねばと思うてな。夜遅くにすまぬな。」

「…いえ、恐れ多い事でございます。しかし、何故私だけを?」

だろうな。疑問は重々承知だ。新しい小姓は堀だけでは無いし、彼は最も若く新人なのだ。親しくする意味は無いだろう。

「お主は、よく気が利き頭も回る。いずれ、小姓の中でも重要な役割を得るだろう。だからこそ、お主と話してみたいと思ったのだ。」

「…左様でございますか。」

嬉しくはあるのか、僅かに緊張は和らいだが、まだ解せない様子だ。急に呼ばれてお前は優秀だから呼んだのだと言われても、ピンと来ないだろう。更に相手は容姿端麗で、頭脳明晰な若き織田信長の右腕なのだ。信じられないのは無理も無い。

「そう言えば、年は幾つになったのだ?」

「っは。13になりました。」

13かあ。可愛いな…いや、別にショタコンとかじゃないけど、この世界では少年を愛でるのは普通ですし。
13…あと数年で元服って事は、堀秀政になるって事だよね。

うーん。さてと、この子を懐かたいけれど。
シンプルに、やはりこの手段だな。

「…堀、此方へ。」

「はい?」

大人の階段を駆け上がり始める、危険な美しさを持つ少年は、光秀に誘われて彼に不思議そうに近づく。男だと思えない優美さと甘い香りは、性に敏感な少年の鼓動を早めていく。

「お主を呼んだ理由は…もう一つあるのだが。気付かぬか?」

壮絶な色香を放ち、堀の頬をゆっくりと撫でて流し目をする。堀は自身の容姿を自覚しており、幼少から汚い大人のそういった対象も勤めているので、何となく察してしまう。

「…その、私でよろしければ…。」

自然と赤く染まる顔を俯かせた堀を抱き寄せ、布団に入り込んだ「可愛いな」と囁き、頬に口づける。畏れか期待かに固くなる堀の中心に気付かぬ振りで、ただ抱き締めた。

「…うむ。では、寒いので私に抱かれておれ。」

そのまま目を閉じて、ただ抱き締める。次第に状況の掴めてきた堀は、おそるおそる光秀を見上げた。

「あの…明智様?」

「…ん?どうかしたのか、堀よ。」

「私を…その、抱かれ無いのでしょうか?」

意外とハッキリ言うんだな。まあ、私が仮に男だったら分からないけどさ…いや、それでも信長の小姓を抱いたら駄目でしょ。

「では、抱いても良いのか?」

うー、とか、あーとか呻く少年は、本当に小さく頷くのだった。

「はい。明智様でしたら…。」

耳まで赤くして、恥じらいながら光秀に抱きつく。将来とてつもない手腕を発揮する堀も、今はまだ美しい武将に憧れる少年なのだ。

どうしよう…可愛い過ぎるだろ。今すぐ信長の所に走って行って「堀くんを下さい!」と土下座したい位だ。

「…可愛い。お主なら、私の名を呼んでも構わない。」

「い、いえ、その…ご無礼ですので…。」

まあ、そうだよね。プルプル頭を横に振る少年の頭をなでなでして置く。

「うーん。ならば、私がそなたの名を呼ぼう。可愛い久太郎。」

「…っ有り難き幸せ。」

人を下の名前で呼ぶのなんて、この世界じゃ初めてだよね。あ、そろそろ眠い…いやいや、こんな期待に満ちた思春期を放置して良いのか?
とりあえず、目の前の柔らかそうな唇にゆっくりと口づける。

「…あ、明智様…!」

瞳を潤ませうっとりと余韻に浸る少年に、優しく微笑んで抱き締めて頬づりする。

「久太郎。…明日は斉藤道三との会談があり、早く眠らねばならない。また、次に呼んだ時にそなたと寝所を共にしても良いか?」

「はい。…是非お呼び下さいませ。」

少し残念そうだが、嬉しそうにはにかんで布団から出ていくと頭を下げた。
「それでは、失礼致します。」と出ていく久太郎に「おやすみ」と声を掛けて襖が閉まった。

誰も居ない部屋で、光秀は悶絶する事となる。

私は、私は…年端のいかぬ少年に何の約束をしているんだあああああああああああああああああああああ!!?

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