水鏡の月
2人は落ち着いて、リビングでのんびりと過ごした。

「家を出てから、本当に何してたの?凛音」

母親はずっと凛音の心配ばかりしていたようだ。

「ごめんなさい。家出てここから少し遠くの海のほうまで行ったよ。そこで…素敵な人と出会ったの。その人の家にお世話になって…、それでね母様…」

凛音は家出中の時の話を母親にする。
そして…

「その人が良かったらなんだけどね、僕…その人と結婚前提に付き合いたいの。見ず知らずの僕に声をかけてくれたの…」

咲燐のことをさり気なく母親に話す。
自分の気持ちも…。

母親は息をつき、湯呑みを摩る。

「…会ったことはないけど、話してみなさい。その…彼?に。そしたら、2人で報告に来なさい。それを私は待つわ」

母親は笑って凛音を応援する。

「ありがとう、母様。数日の間はここにいる。…休みの日、また向こうに遊びに行くよ」

凛音は嬉しそうにスマホをぎゅっと握る。

「…連絡」

「え?」

母親は凛音の持っているスマホを指差す。

「連絡、入れてくれば?そのあなたが言う彼に…」

そう言われ、凛音はすぐに立ち上がり、リビングを出た。

「ありがとうっ…」

凛音は涙を浮かべて言う。

「何で泣いてんのよ、凛音」

母親は楽しそうにクスクス笑いながら言った。

凛音は出入り口の影で、咲燐に連絡を入れた。

廊下に発信音が小さく響く。
凛音は咲燐が出るのを楽しみに待つ。

しかし、咲燐は出なかった。
凛音は1度諦め、またかけ直すことにした。

「…あら?どうしたの?」

母親が早く戻ってきた凛音に少しばかり驚く。

凛音は、あからさまに落ち込んでいる。
母親の隣りに凛音はしおらしく座った。

「…忙しいのか出なかったから、また後でかける。」

凛音は項垂れる。
母親は、凛音の頭を優しくぽんぽんと撫でた。

夕飯作ったり、洗濯したりと…動いていたら気づけば夕方。

「母様、もう1回電話してくるね」

凛音はとぼとぼとリビングを出る。

「…はぁ〜、…よしっ」

凛音はスマホの履歴を押す。

「…出てくれればいいけど」

凛音は咲燐の履歴を押して、スマホを耳につける。

また発信音が小さく響く。

『はい』

スマホの向こう側から咲燐の声がする。

「…もしもし?咲燐?」

凛音の声が明るくなった。

『おお、凛音。どした?』

咲燐は驚いた様子だった。

「あのね、咲燐。…次の休みそっち行ってもいい?」

凛音は照れているのか、恥ずかしそうに咲燐に聞く。

『うん、いいよ。待ってる…。それに言ったろ、俺も話があるって…。今日のこともその日話してくれると嬉しい』

凛音と咲燐の電話は終わって、凛音は母親のところに戻る。

「母様、次の休み泊まりで彼のところに行ってくるね」

凛音は嬉しそうに母親に報告する。

「良かったね、凛音」

母親も、凛音の気持ちが移ったのか凛音を思いっきり抱きしめた。

凛音は休みの日が来るまで、一生懸命に母親の手伝いをした。
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