黒桜~サヨナラの前に~



鼻で笑ってからあたしを見つめるソイツは、あのときよりも冷酷で。



あたしは昔の感覚を思い出した。



「二人の事は帰すよ。だから君がここに残って、僕らのオモチャになって?」



妖しい笑みを浮かべて、あたしの答えを待つ。



だけどあたしは、声がでない。恐怖に囚われるしか無かった。



今はコイツしかいない。アイツはどこかに行ってるんだろうか。



……阪上兄弟……。



「……早くしないと兄さんが帰ってくるよ。兄さんは僕よりも酷い人だからね。そうなると、そこの二人も逃げられなくなるけど……良いの?」



「………っ」



アイツが一番残酷な奴だってことは、きっとあたしが一番知っている。



なのに、声が出ない……。



……悔しい。こんな自分が腹立たしい。



二人を逃がしたいのに、こんなところに一人残るのが嫌だと思っている自分がいる。





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