Kissの温度
『はぁ…』
給湯室で
カップにコーヒーを注ぎながら
大きなため息をつく。
「ねぇ、俺にもコーヒー入れて」
突然後ろから声がして
びっくりした私は
注いでいたコーヒーを
自分の左手にこぼしてしまった。
『きゃっ、あつっ!!』
「おい、大丈夫か!?」
声の主は
慌てて私の手を取ると
勢いよく水を出し
手を冷やし始めた。
『えっ、あの…』
私の横で必死に
手を冷やしている人を見上げる。
その横顔は
私の知らない顔だった。
誰だろう……
私がぼんやり考えながら
彼の横顔を見つめていると
「悪い。急に声かけて。」
その人は真剣な表情で
私の手を見つめている。
「細い手首だな……」
えっ!?
ボソッと呟いた彼は
私の手首を掴む手に
少し力を入れた。
『あ、あの、もう大丈夫です。』
びっくりした私が
慌ててそう言うと
彼は私を見て水を止める。
そして近くにあったタオルで
そっと私の左手を拭いた。
彼は私の手を拭き終わると
手首を掴んだまま
眼鏡の奥にある切れ長の目で
じっと私を見つめた。
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