Kissの温度
次の日


本城さんは会社に出勤していた。



(今日は本社じゃないんだ…)



何となく視線を合わせられなくて
極力そばに寄らず、会話も避け
仕事に没頭する。



嵐は朝から顧客回りの為、挨拶も
そこそこに出掛けて行った。



昨日の余韻もなく…
何となく拍子抜けする。



(やっぱりからかわれた?!)




午後に入り、私は相変わらず
仕事に集中していた。



このまま何も無く終わって
欲しい…



そんな事を考えていると…



「成瀬。ちょっといいか。」



本城さんに呼ばれた。



(うっ、今は顔合わせたくない
のにな…)



聞こえないふりでもしようかと
考えていると、再び名前を
呼ばれる。



「おい、成瀬。ちょっと来て
くれ。」



(やっぱ無理だよね…)



『あっ、はい。今行きます。』



私は席を立ち、重い脚を引きずる
ように、本城さんの席まで歩く。



『なんでしょうか?』



「ああ、忙しいところ悪いな。
この資料、数字まとめておいて
欲しいんだが、頼んでもいいか
な。」



本城さんは私を見つめる。



私はその目が見れなくて
俯きながら聞いていた。



『はい、大丈夫です。期限は
いつまででしょうか?』



話している時も視線は宙を舞い
決して交わる事はなかった。



「…明日午前中までに、まとめて
おいてくれればいいよ。」



『はい、わかりました。」



私は資料を受け取ると
すぐに踵を返し、自分の席へ
戻った。



一度も視線を交わさずに…



席に戻った私は胸の息苦しさを
感じ、再び席を立つ。



私は一息つこうと廊下へ出た。



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