Kissの温度
「なぁ遥。俺を避けてるのか…」
俯いている私の肩に、本城さんは
手を置いた。
『………』
どう答えていいかわからず
私は黙ったまま俯き続ける。
「この前の事、もしかして
気にしてるとか?」
その言葉に身体が反応して
ピクッと震える。
「やっぱりそうか…」
私の反応を見て本城さんは
勝手に解釈をして頷いた。
(私気にしてるの?)
本城さんに子供が出来た事に
少なくともショックは受けたが
それが全てではない気がする。
私は自分がどうしたいのか
整理がまだついていなかった。
「遥。」
甘い声音で私の名前を呼ぶ
本城さん。
肩に置いていた手を背中に
回し、私を抱き寄せた。
一瞬身体が強張る。
でも腕の中に入ると、嗅ぎ慣れた
本城さんの匂いに身体と頭が
安心する。
「不安にさせて悪かった。でも、
わかってくれ。遥の事は変わらず
愛してる。だから…」
私の耳元でそう囁くと、私の
顎を取り上に向かせた。
あんなに避けていた視線が
簡単に絡み合い、唇が自然と
近づく。
幾度となく交わした
本城さんとのキス。
でも今は…
何も感じない…
何も伝わらない…
何も響かない…
私の身体は自然に本城さんを
拒否し胸を押し返していた。
「遥?」
『…ごめんなさい。』
私はそれだけ呟くと
ドアに向かって走った。
一瞬何が起きたのか理解出来
ないでいる本城さんを背中に
私は鍵を開け部屋を飛び出す。
そしてただひたすら走った。
途中誰かとすれ違ったけど
私はそれさえ気付けないくらい
夢中で走っていた。
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