最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
02. きっと大丈夫
「遅ればせながら、高塚の御曹司について調べてみたわけよ」
「さすが千晴さん、疑り深い」
「出身校…は知ってるわよね。家は旧財閥系に属する名家。父親は財閥解体後に最も力を持っている、グループ内の商社の取締役。まあ御園家の息女との婚姻は、向こうの家的にも嬉しいんじゃないかしら」
「ふうん」
「コンサルとしての実績は確か。経営してるコンサルティング会社の顧客は、中、小規模ながらも経営状況のいい優良企業ばかりよ」
「ふうん」
「性格は、明朗快活という評価と傲岸不遜という評価で真っ二つ。女癖もあまりよくない。まああの家柄であの容姿なら、女のほうから来るんでしょうね」
その辺は二度目に会って十五分で感じた通りだ。やっぱり人のことなんて、時間をかければ多くを知れるというわけじゃない。短時間で得たものが核心をついている場合だってある。
「一度若手の女優から結婚を迫られるくらいの関係になっていたのを、素知らぬふりで捨てたとか。すっぱ抜かれはしなかったものの、界隈では話題になったらしいわ」
「ふうん…」
「どう?」
千晴さんが私のマンションの部屋で、手を腰に当てた。
ここは私のような社会人三年目のぺーぺーが暮らすには贅沢な造りの1DKだ。なぜ私の収入でこんなところに住めるのかというと、マンションのオーナーが親族で、格安で借りているからだ。
大学時代まで実家で祖父母と暮らしていた私が、一人暮らしをしたいと言ったとき、自分で部屋を探すことだけは認めてもらえなかった。
東京の隅っこで七万円くらいのところに住みたいのだなんて言ったが最後、ショックで祖父母とも倒れてしまいかねなかったので、そこは諦めた。
「どうって?」
「私には、生涯ひとりの妻だけを愛し抜くような男には思えないんだけどね」
「成功した男の人は、えてしてそう見られがちだよね」
「一般論化してぼかすんじゃないの。あんたの婚約者さまの話をしているの」
ダイニングの椅子の上から、千晴さんを見返して笑った。
結納はもう目の前だ。彼女の心配性もピークに達しているに違いない。