最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
涙が滲んだ。

長い指が、私の奥を探る。

こんなの、違う。

違う!


「久人さん……!」


彼の動きがぴたっと止まった。

考え事をしているみたいに、じっと静止したあと、ゆっくりと身体が離れていく。

私は、そむけていた顔を正面に戻した。まばたきすると、こめかみを横切って、フローリングの廊下に、涙が一滴落ちた。

久人さんが、愕然とした表情で私を見下ろしていた。


「桃…?」

「久人さん…」

「え、あれ?」


大きく見開かれた瞳が、私の顔から首、身体、と順に動き、自分のまたがっている下腹部を見つめる。その目には、はだけた服と、こすれて赤くなった皮膚が映っているはずだ。

さっと青ざめたのが、見ていてわかるほどだった。

久人さんが、がばっと立ち上がる。けれど足元はおぼつかず、ふらつき、壁に肩をぶつけた。髪をかき上げる手が、震えている。


「ごめん、桃」

「いいんです、それより」

「ごめん…!」

「久人さん」


起き上がろうとする私を見まいとするみたいに、片手で顔を覆い、玄関のほうへ向かう。


「久人さん!」


そして、私の声を振り切るように、慌ただしく靴に足を入れて出ていった。

私はぽつんと廊下に取り残された。


「久人さん…」


あんなに荒れた彼を、見たことがない。

なにか、あったんですね、久人さん。

久人さん…。





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