最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
私はうなずいた。また滲んできた涙を、手のひらで拭う。


「夫婦って、努力してなるものよ」


はい、わかりました。

結納して挙式して、入籍すればなれるわけじゃないんだね。理解し合って、認め合って。そうやって寄り添ってはじめて、夫婦なんだ。


「久人さんと話してみる」

「そうしなさい。つらくなったらうちに来るのよ。嫌になったらやめるっていう手段が残されてるのが、夫婦のいいところなんだから」

「やめてよ」


縁起でもない。自分は旦那さんと熱愛のまま添い遂げておいて、姪にはそれか。

私たちは笑い、やっとそこで、立ち上がることを思い出した。長いことフローリングの上に座っていたため、身体が軋む。


「じゃあね、がんばりなさい」

「うん、気をつけて」

「あ、それ、シュークリームだから、冷蔵庫に入れてね」


箱を指さし、千晴さんは帰っていった。私はすぐに言われたとおりにし、つくった夕食も、傷む前に保存容器に入れ、冷蔵庫にしまった。

千晴さんには止められたけれど、やっぱり少しだけ、久人さんを探しに出ることにした。コンビニまでなら人通りもあるし、道も明るい。

エレベーターに乗り、もしかしたらとエントランスフロアのラウンジをのぞきながら、屋外に出る。

通りを見渡しても、当然ながら久人さんの気配はない。

念のため、久人さんに電話をしてみたけれど、やっぱり通じず、むなしくコンビニまでの距離を往復し、私はすごすごと部屋に戻った。

彼が帰ってくるまで眠らずに待つことにした。一度そう決めてしまうと、なんだか気が楽になり、眠気予防にコーヒーをいれた。

戻ってきたとき、コーヒーの香りがしたら、きっと久人さんもほっとする。

氷を入れたグラスに、いれたてのコーヒーを注ぎ、リビングで飲もうと移動したとき、パンツのポケットで携帯が震えた。

久人さんではないだろうと感じたとおり、彼ではなく、樹生さんだった。
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