最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
久人さんの視線が、便箋の端のほうへ移動する。
【久人、幸せな家庭を築く力を、あなたが持っていることを、嬉しく思います】
最初に読んだときは、養親が子供に送る、ありふれた温かいメッセージのひとつだと感じただけだった。
だけど、久人さんの欠けた部分を知った今、文字がまったく違った重みを持って飛び込んでくる。
──幸せな家庭を築く力を、あなたが持っていることを、嬉しく思います。
夏らしいあじさいの透かしが入った、きれいな便箋。白紙が一枚添えられている。封筒の宛名もお義父さまの字だ。切手まで美しい。
「これでも信じられませんか。感じませんか?」
「なにを?」
「お義父さまの、愛情です!」
私たちの家まで足を運んで、いろいろなものに触れ、確認して、彼は心から安堵したのだ。そして帰ってから、息子に宛てて手紙を書いた。丁寧に丁寧に。
家庭というものを知らずに幼少期を過ごした久人さんが、彼なりの家庭を手にしつつあることを、静かに喜びながら。
封書全体から伝わってくる、お義父さまの久人さんへの想い。
これが愛でなくて、なんです?
「信じてるよ、だから、恩を返すつもりで…」
「そういう貸し借りの話じゃありません。お義父さまは、久人さんからなにか返してほしいわけじゃないんです。久人さん自身に、幸せになってもらいたいんですよ、それだけなんです」
わかりませんか、久人さん。
誰かの幸せを、心から願うこと。そのために自分を注げること。
「それこそが、愛情です」
久人さんは黙ってしまった。手に持った便箋に視線を落とし、でも文面を読んでいるふうでもない。
【久人、幸せな家庭を築く力を、あなたが持っていることを、嬉しく思います】
最初に読んだときは、養親が子供に送る、ありふれた温かいメッセージのひとつだと感じただけだった。
だけど、久人さんの欠けた部分を知った今、文字がまったく違った重みを持って飛び込んでくる。
──幸せな家庭を築く力を、あなたが持っていることを、嬉しく思います。
夏らしいあじさいの透かしが入った、きれいな便箋。白紙が一枚添えられている。封筒の宛名もお義父さまの字だ。切手まで美しい。
「これでも信じられませんか。感じませんか?」
「なにを?」
「お義父さまの、愛情です!」
私たちの家まで足を運んで、いろいろなものに触れ、確認して、彼は心から安堵したのだ。そして帰ってから、息子に宛てて手紙を書いた。丁寧に丁寧に。
家庭というものを知らずに幼少期を過ごした久人さんが、彼なりの家庭を手にしつつあることを、静かに喜びながら。
封書全体から伝わってくる、お義父さまの久人さんへの想い。
これが愛でなくて、なんです?
「信じてるよ、だから、恩を返すつもりで…」
「そういう貸し借りの話じゃありません。お義父さまは、久人さんからなにか返してほしいわけじゃないんです。久人さん自身に、幸せになってもらいたいんですよ、それだけなんです」
わかりませんか、久人さん。
誰かの幸せを、心から願うこと。そのために自分を注げること。
「それこそが、愛情です」
久人さんは黙ってしまった。手に持った便箋に視線を落とし、でも文面を読んでいるふうでもない。