最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
向こうの肩を押しやるようにして、顔を見た。途方に暮れたような表情が、力なく私を見返す。


「桃、どんどん色っぽくなってるの、気づいてる？」


それこそ、その限界とやらの影響でそう見えているだけなのでは、と言おうとしたけれど、やめた。

もっといいことを思いついたからだ。


「はい、抱かれます」

「凛々しい承諾だなあ」

「ですが条件があります」


なにを想像したのか、久人さんの顔に、怪訝そうな警戒の色が浮かぶ。私は彼の両手を取った。


「私、久人さんが好きです」


彼の視線の動きが止まった。慎重に、私の声を聞いているのがわかる。


「それを信じてくださるなら、抱かれます」


ねえ、わかりますか？

最初から、きっとうまくいくって思っていた。だけどやっぱり、それだけじゃダメでした。人と人が一緒にいるには、"うまくいく"以上のなにかが必要で。

今では私、そんなに"うまく"いかなくてもいいっていう自信があります。それでもなんとか、歩いていけるだろうって。

あなたと手を繋いでさえいれば。


「全部好きです。毎日好きです。会社の久人さんも家の久人さんも好きです。これから久人さんが変わるなら、それも好き。それから、まだあまり聞かせていただいていない、昔の久人さんも」


温かい手を、ぎゅっと握る。


「絶対に好きです。なぜなら、久人さんなので」


じっと聞いている久人さんが、まるで難題を出された生徒みたいに見える。私は笑いながら立ち上がった。身を屈め、彼のこめかみにキスをする。


「どうです、信じられそうですか？」


くすぐったそうに目をすがめてキスを受けていた久人さんが、ふいに私の手を強く握った。まっすぐ見上げてくる、彼らしい眼差しには、まだほんの少しの迷いがある。

その顔が、照れくさそうに笑った。


「たぶん…」


私は抱きついて、今日のところは合格です、と全身で伝えた。




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