最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
これはもう私たちが決めることではないので、叔父に仲介してもらい、両家で話し合って、より直近に挙式のなかった御園家側で挙げることになった。

神前だといわゆる式場と提携したブライダルプランニング会社がない。多忙な久人さんとすべて準備するのは難しく、けれどなにもかもを親族任せにするのもつまらない。

というわけで久人さんの人脈を伝って、フリーのプランナーさんにこうしてお願いしている。

彼女はオフィスを持っていないので、場所は毎回どこかの喫茶店やフリーのオフィススペースを使う。これが気分が変わって楽しい。

今日の打ち合わせの場は、静かでレトロな喫茶店の片隅だ。


「あの、ひとりだけという車があってもいいですか?」

「もちろんです」

「例の"千晴さん"? お祖父さま方と一緒にしてあげないの」


私の手元を覗き込んで、久人さんが不思議そうに言った。


「千晴さん、きっと泣いちゃうと思うから。ゆっくりメイクもお直ししたいだろうし、ひとりになりたいタイミングだと思うんです」


当日、彼女が誰かと一緒に乗りたくなったら、空いた車は小さな子がいる家族にでも、ゆったり二台使ってもらえばいい。

久人さんが「なるほどね」と微笑む。


「結納で久人さんと会えるのを楽しみにしてるんです。タイミングがあったら、お話ししてあげてくださいね」

「その"楽しみ"の意味が気になるなー。桃の保護者代わりの方なんでしょ?」

「はい。彼氏ができたら連れてこいってずっと言われていたんですけど、実現できなかったので、いよいよだって気合いが入ってるみたいで」

「怖すぎるよ。まあ、受けて立つけどね」


肩をすくめて小さく息をつく様は、実際そこそこ怖がっているようでもあって、私は彼のこういう人間らしい姿を見るのが好きだ。

もちろん、いつものソフトに尊大な態度も好きだけど。


「次回はドレス選びですね、ショップのほうから、楽しみにお待ちしておりますと連絡がございました」


配車を確認しながら、プランナーさんが私に向かってにこりと笑う。

私は隣を振り返った。
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