最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
「そこで探した。そして見つけた」

「…どうして、その…本当の子供のほうを探さなかったんです?」

「探していた。だが父が亡くなってしまったため、誰が居どころを知っているのかすら、わからなかったんだ。きちんとした家に預けられたとは聞いた。我々のことをおぼえてはいないだろう。彼にも、彼を引き受けてくれた夫婦にも、新しい人生が始まっている。それを取り上げてしまっては…」


続きは説明されなかった。だけどわかった。

それをしたら、お義父さまたちが味わったのと同じ苦しみを、味わわせることになる。だからできなかったのだ。

おふたりは話し合い、養子を迎えようと決め、代理人を立てて探した。けれど見せられるのは書類ばかりで、家族を求める手続きとは違うと感じた。

そこで、施設に足を運んだ。


「よくおぼえているよ、最初に訪れた場所で、偶然お前と会ったんだ。中庭で目が合って…お前は会釈をしてくれた。警戒していたが、目つきには好奇心が隠れていた。だがその好奇心を発揮する機会を得ていない。すぐにそれがわかった」


我々はね、とお義父さまが懐かしむように言う。


「"こういう子が欲しい"と探していたわけではないんだ。家族になるべき子に会えば、なにか感じるだろうと信じていた。思ったとおり、お前を見た瞬間に──…」


父と息子が見つめ合う。私はお義母さまと、目を見合わせた。


「この子の親になりたいと思ったんだよ」




久人さんの前のコーヒーカップを、トレイに載せた。


「もう一杯お飲みになりますか?」


カップには半分ほど残っているけれど、冷めきっているのでおいしくないだろう。私も飲みたいし、新しくいれようと思い、尋ねても返事はなかった。

お義父さまたちが帰り、ひとりになったソファに座って、自分の腿をテーブル代わりに頬杖をつき、久人さんはぼんやりしている。

私は一度カップを下げ、いれ直したものを持ってリビングに戻った。


「俺、自分のお客さんを連れて、小さくていいから、じっくり寄り添える会社を、新しく作ろうかなあ」
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