最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
「お見合いのお話は?」

「親族会議経由で、俺のところに来た」

「よくお義父さまが止めずにいてくださいましたね」


一族の会社に入るために、無理に結婚する必要などないと中断でもされていたら、こんな今はなかった。そこだけは幸いだった。


「最初は俺も適当に流してたからね。でも桃と結婚するって決めたとき、父さんも母さんも歓迎ムードだったよ。ふたりも桃のこと、気に入ったんだろうね」

「本当ですか」


そうだとしたら、すごくうれしいです。

家との縁を切ってまで結婚したふたりだ。義務でする結婚なんて、もっとも嫌うところだっただろうに。

大事な久人さんの伴侶に、私を認めてくれたと思うと、誇らしい。

久人さんと出会ったときのように、なにか感じてくれたんだろうか。そう考えていたら、「なにか感じたのかなあ」と久人さんも同じことを言った。

探し当てた息子さんは、育った地元で公務員になっているそうだ。


『私たちは恥ずかしながら、彼を我々の会社に呼ぶという提案もしたんだよ。代理人を通して、自分たちの力で幸せにやっていきます、と丁寧な断りをもらった』


お義父さまは苦笑し、久人さんに話しかけた。


『お前も、やりたいことがあるんじゃないのか』

『えっ…』

『私は高塚を変えたくて、お前を後継者にと考えてきた。もちろん、お前が嫌なら無理強いはしないつもりだった。だが独りよがりだったな』


久人さんはまばたきもせず、じっと聞いていた。


『私の言葉足らずで、長年苦しめてきてすまない。後を継がなくても、お前が息子であることに変わりはない。そのことを信じて、お前はお前のやりたいように生きなさい』


ふーっと真横でため息をつく音がする。

きっと久人さんも、お義父さまの同じ言葉を思い出していたんだろう。彼はそれを聞くと呆然としてしまい、『僕のやりたいように』と繰り返し、両親を笑わせた。
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