最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
言い訳がましいなあ。

やっぱりシンプルに…。

きゃー!!

いきなり誰かが私を背後から抱きしめた。

私は恐怖のあまり声も出せず、心の中だけで全力で悲鳴をあげた。


「あっは! すごい驚き方…!」


おかしくてたまらないって感じの笑い声が、頭上から降ってくる。


「久人さん!」

「身体、びくって、すっごい跳ねたね、今」

「重い、重いです!」


後ろから私を抱きしめ、体重をかけてくる。いたずらを成功させた彼はさも愉快そうに、私の鎖骨のあたりに手をやった。


「心臓すごい」

「当たり前ですよ…」

「やっぱり、余計なものがないと、いいね、抱き心地」


その手が周辺をまさぐり、長い指が際どいところまで届く。たまらず私が身をよじると、そんな抵抗も想定のうち、とばかりにふんと鼻で笑われた。

彼はもう気がついているに違いない。その"余計なもの"がなくなった影響を、私自身、身をもって感じていることを。

本当に、一枚ないだけで、ここまで体温が近く感じられるものなんだ。自分があまりに無防備な気がして、それを久人さんの前にさらしていることがいたたまれない。


「なかなか帰ってこないから、どうしたのかと思ったよ。千晴さん?」

「はい…」


さすが、ちらっと文面を見ただけで私の窮状を察したらしい。


「正直に書いたら、飛んで来たりしないよね?」

「おそらく、さすがにそれは、ないかと…」


言っていて、はっと思い出した。

ようやくわかった、”夫婦業”の意味…。

だとすれば、私が久人さんの家に泊まると知ったら、彼女はむしろ激励の言葉を送ってくるだろう。もしかしたら作法とか教えを授けてくるかも。

えい、と返信を打ち込み、送信した。

千晴さんからの返事は明日の朝見ることにして、バッグに携帯を突っ込む。
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