最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
「わ…ちょ、ひ、久人さん」

「早くベッド戻るよ」


首筋にふわふわした温かな感触。これ、キスだ、きっと。わわ。


「あの、今日は一緒に寝るだけですよね?」


念のため確認する。

振り仰いだ顔は、きょとんとしていた。


「不満なら、相手するよ?」

「いえっ、いえいえ」

「でも俺、明日早いんだ。手抜きになっても怒らないでね」

「だから、いいです、不満なんてないです、全然」


久人さんがくすくす笑って、頭をぐいとひとなでしてくれる。ようやく身体が離れていったときは、私は肌のあちこちに、彼の体温が残っているのを感じた。


「行こ」


コンビニに行くときはもったいぶったのに。寝室までのちょっとの距離を、久人さんは私の手を取って歩いた。

男の人の手。さっきの帰り道と同じ、ドキドキもするけど、すごく安心する。


「目、悪いんですか」

「うん、そこそこ」


再びベッドに入り込むと、久人さんは私に、腕枕というものをしてくれた。実際腕に頭を乗せたら「それ痛い」と言われたので、この体勢は、肩枕と言ったほうが正しいんじゃないかなあ、と思った。


「桃は? まさか裸眼?」

「そうです。うち、視力は誰も問題ないんですよ」


その代わり老眼が早々と訪れるため、千晴さんなんかはすでに数年前に「絶対人前でかけない!」と言いながらおしゃれな老眼鏡を購入していた。

へえ、と久人さんが感心した。


「そりゃいいね、目がいい血筋は貴重だよ」

「お義父様たちもお悪いですか?」


久人さんはちょっと天井を見つめ、「そうだね」と言う。もう眠いのかなと思ったんだけど、ぱっちり目は開いているので、そうでもないみたいだ。
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