最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
お椀を手に戻ると、「座りなさい」と椅子を指さされた。


「桃、そこまで完璧にやってたら、お前が壊れちゃうよ」

「完璧なんかじゃないです」

「どこが? 越してきてから、俺より早く寝たことはないし、遅く起きたこともない。家中いつもピカピカで、帰ればごはんはできてる、風呂は沸いてる、俺は洗濯すら一度もしてない」


それのなにが悪いのかわからず、私は返事をしなかった。

久人さんはお箸を置き、軽く身を乗り出して、テーブルの上で腕を組んだ。


「これじゃホテルだよ。対価を払って受けるレベルのサービスだ。楽させてもらって助かるけど、俺は桃になにも払ってないし、ここまで求めてない」

「生活費も、ほとんど出していただいてますし…」


私の口ごたえに、久人さんの眉根が寄る。


「それは、出さない分を労働で補えっていう意味じゃないよ。俺のほうが収入がある。使える金が多いのも当然だ」

「久人さんは、お仕事も、責任のあるもので、大変ですし…」

「俺は桃に、無責任な仕事なんて頼んだつもり、ないよ」


黙った私に、さらに続けようとする。


「あのね、がんばっ…」

「がんばらなくていいよっていうのは、優しさじゃありません!」


思わずテーブルを叩いた。遮った声は、悲鳴みたいになってしまった。

久人さんが、ぽかんと目と口を開けている。


「あっ…」


すみません、と引っ込めようとした手を、すばやく久人さんが捕まえる。彼の瞳が、じっとこちらを見据えた。


「いいよ、思ってること話して」

「あの、ごめんなさい」

「謝る必要ないから。桃が考えてること、今、教えて」


テーブルの上で重ねられる、温かい手。長い指を見つめた。
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