最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
「…期待されないのは、かなしいんです」

「してるよ?」

「がんばらなくていいっていうのは、私にとっては、見捨てる言葉です。なにも期待してないよってことです」


おそるおそる視線を上げると、久人さんが愕然とした表情で見返す。


「そんなつもりで言ってないよ」

「でも、そう思えてしまうんです。わ、私…」


赤らんでくる頬を、片手で隠した。


「つ、つ、妻としての! 務めも果たしてないのに…ほかのことくらい、気の済むまでやらせてください!」

「妻としての務め? ってなに?」


久人さんが目を真ん丸にして、素っ頓狂な声を出す。情けなさに涙が浮かんだ。


「よ…る、の…」

「夜の?」


くり返してから、思い当たったみたいで、「あ」と口を開く。


「そんなの気にしてたの?」

「気にしてたというか…つまり私、久人さんを満足させられていないわけで」

「いやいやいや、俺もいい歳だし、下半身で不満とか満足とか決まらないから」

「下半身?」


耳慣れない言い回しに聞き返すと、久人さんがゴホンと咳ばらいをする。


「ごめん、言い方があれだった。えーと、俺は、そんなのが奥さんの役目だなんて思ってないし、してなくても桃に不満なんてないよ」

「えっ…」

「いつか、その、できる日は楽しみだよ? もちろんね?」


"用なし"と言われた気がして青くなった私に、久人さんが慌てて言い添える。
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